ジェリー・ロペスの「空」と「スピリット」論

もうこれくらいにしておこう、と前回で終わろうと思ったけれど、ジェリー・ロペスという人は〝サーフィン”を言語化させたときに彼を超える人はおそらくいないだろうということで、私にとって偉大であり興味が尽きない。
今日は2回目のジェリー・ロペスについて書いてみる。
前回は「禅」について加筆し、思考(脳みそ)を「禅」の状態にする話を書いた。今回は「空」と「スピリット」を加味してみる。
ジェリー・ロペス氏は、どうにも親近感がわくと筆者が思っている理由として、彼はハワイ生まれだが、父親はラテン系、母親が日系三世の教師で、その影響で「イタクラ・ケン」という日本名を持っているという血筋があることだ。
母方の親のイタクラ・ケンイチ氏は新潟の出身、また水泳を教えてくれたのはサカモト・コーチ、初めてサーフボードを作ってくれたのはサブローおじさん、と、おそらく推測するにハワイでの環境において、日系人の人々が。日系人はなぜ「海」と近い距離にあり影響を与えるのか、という話はまたいつか執筆してみようと思うが、彼に影響を与えた海との出会いは、日系人を通じて得たという話が実に興味深いバッググランドがある。
さて、そのジェリー氏のいう「禅」は、彼の言葉を借りれば、例えばチューブを抜けているときに「空」の状態になると自身の口で語っている。その様子は、チューブに入ると突然世界が変わり、なぜか時間の概念がゆっくりと変わり音が消え、全身の感覚だけが研ぎ澄まされる。たがチューブを抜けたら、いったい何が起こったのかを思い出すことができない、という。
それがおそらく禅でいうところのでいうところの「空」の状態と言っている。
前回書いた”無”がふさわしい漢字だったかはわからないのだが「空」に秘める意味は、時間の概念すらが喪失する感覚ではないだろうか。
彼は「サーフィン」体験を重ねるプロセスとして、座禅やヨガを行う。それには理由があるという。
座禅だとかヨガの世界は、いうなれば、見えない力の存在を実感して「本当の自然の力」を理解するための入り口。人類の叡智が詰まっていて「私たちの知るべき大切な”何か”がそこにある」のだという。
ヨガは呼吸の科学。
自然の世界にある宇宙的ネルギーを、その際の「呼吸」を通じて自分の中に取り入れる。
サーフィンの海水、波には、そもそも、このエネルギーがあるということだが、そのエネルギーを説明するなれば、プラーナ(梵: प्राण、prāṇa)と呼ばれるサンスクリット語であり「呼吸や息吹」などを意味する。
インド哲学では、同時に人間存在の構成要素の1つである〝風(ふう)”の元素をも意味している。プラーナこそが息物 の生命力そのものとされ、波にそのプラーナが充満しているという。
そのエネルギーを得るための呼吸法=入り口がヨガがプロセスだといったのは、結果として、その得たエネルギーを「波と一体化することに利用」する。
これが「なぜ彼がサーフィンをするのか」という究極的な答えとなる。
ジェリー・ロペス氏がなぜサーフィンするのか。それは、「自分自身が循環する宇宙的なエネルギーの一部になるから」だという。
もう究極的な生き方であるのだが、しかし、そう難しく考えずとも、逆にシンプルな生き方なのだろうと私は理解している。
人は生まれ何を幸せとするか、といったら、究極的には金持ちになるとか名誉を得るというのも1つの獲得する成果物ではあるかもしれないが、最終的には「生きる」ということなのであって、エビデンス(証拠)のあるような世界とも違う、循環の中の一部であり、逆には一部でしかなく、結局は自分が、この自然と調和していくことなのだ。ジェリーさんが結論づけるその生き方は、誰がどう感じるかは様々だと思うのだが、あまりにシンプルな生命体としての存在ではないか、と思う。
それを存分に感じることができるのは、サーフィン。だから、サーフィンを知っている人は、あまりに究極的であり素直なライフスタイルを送っている人種ともいえる。
最後に、数度にわたりジェリー・ロペス氏が語っていたことを記事にさせていただいたのだが、以下に彼が語る究極論を記載して終わりにする。
サーフィン。それは、単なる肉体の体験以上に、より深いスピリットの体験を与えてくれるもの。波の中に「静寂の道」を見つけるため。
だから、そこに最大限の準備をし「生」のすべてをささげる行動でもある。波に乗るのは「死」の恐怖を超えなければならない。自分の手の動き一つ一つを通じてスピリットまでもが、このサーフボードに伝わってほしい、そう願うことで、そのボードに小さな命が宿り、そこに乗ることで命の輪が結ばれて幕が上がる。
内なるスピリットを求め続ける。ただただ、うちなる「スピリット」を求め続ける。それには、ただただ、パドリングし続けるだけなのだ。
これがジェリー・ロペス氏の死生観なのである。
ジェリー・ロペス氏についての詳細はこれで最後になるかもしれないが、筆者にとり、ジャック・マイヨール氏の唐津の海で育った「日本の自然」は、特にその地形や立地もあって、この地球上においてもっとも浄化される海と自然を併せ持つ国だと認識していて、さらに、この世界観を伝えていこうと考えている。
ということで、今日はこのあたりで。
Photo and Words by Naoko BLUER Tanaka
Header photo shooting in Niiigata




