第1回 プロサーファー 堀口真平「大きな波の魅力は何ですか?」
小波はそれほど良くない僕の地元では、
みんなリーフで始め、終えるんです。
小山内:和歌山の人たちは大きな波が好きという印象があるよね。
堀口:そういう波が多いんですよね。小さい胸以下の波はあんまり良くないコンディション。みんなリーフで始めて、リーフで終わる。存在としてアンダーグラウンドですよね。プロサーファーが多いわけではなく、でもサーファーはいるという土地柄です。
小山内:仕事は何をしているの?
堀口:漁業と土木の関係者が多いですね。漁師、漁協で働いている人、港で働いている人、飲食関係、夜関係。
小山内:真平の地元の串本町には、シークレットだけれど良い波があるとよく聞くよね。
堀口:やばいポイントはいっぱいあります。これから挑戦してみたいところも5つほどあって、パドルからのテイクオフ程度で終わっているところが3つほど。親父がハルカを追い求めてきたように、僕ももっと地元の波を探求したいと思っているんです。一方で、僕の地元には湘南のようなオープンビーチがないんですよ。家の近くのビーチはとても狭くて、そこにいるサーファーは全員顔見知り。そういう環境だから、どうしても雰囲気はオープンではなくなってしまうんです。たとえば波の大きな、僕らでも危険を感じる日に知らない顔を見かけたら「大丈夫ですか?」と話しかけます。僕としては、その人のレベルに合った波で、安全に楽しんで帰ってもらいたいですからね。ただ和歌山は、僕らでも挑戦するような波も来るという場所なんです。
小山内:和歌山という場所で生まれ、お父さんの背中を見て育ったから、真平のサーフィンにはビッグウェイブが含まれる、という感じなのかな。
堀口:パイプラインの前で育ったから、ジョンジョンにとってはパイプをサーフするのが普通という、そんな感覚なんでしょうね。湘南のようなビーチブレイクではなくて、リーフブレイクが日常の場所だから、僕のような趣向性を持つサーファーが育つということなんだと思います。
一番好きなのはでっかいチューブ、
その最たるものがパイプラインです。
小山内:改めて、大きな波の醍醐味って何だろう。
堀口:大きな波に対して、限界まで自分をどれだけプッシュできるのか。プッシュする気があるのか。その心の持ち方というか、スタイルでしょうか。
小山内:この冬にビビった時はあった?
堀口:いちどオフザウォールで死にそうになりました。10フィートくらいあった誰も入っていない時に数人でパドルアウトして、がっつり波の真下で喰らったんです。背骨が折れたような痛みがあって、リーシュは切れたからサーフボードはない。しかも波は次から次へ入ってきている。背中が痛いから泳げないし、息は上がっているしで、もう溺れそうでした。波を喰らいながらもどうにかカレントに乗って沖へ出たんですけどね。決してナメてはいなかったんですけれど、悪い状況というのはふとした時に起こって、そこに自分がハマってしまうことがあるんです。ほんとうに怖かったですよ。
小山内:逆に最高の波は?
堀口:最後の最後で何発も最高のバックドアに乗れたことですね。パイプも1本いいのが乗れました。
小山内:今、一番好きな波というのは?
堀口:でっかいチューブです。サーフィンのより本質に近い波だと思います。オフショアで、パワーがあって、巻いてくる波。その最たるものがパイプラインですね。
photo by U-SKE @SOMEWHERE IN JAPAN
小山内:誰もが行けるわけではないピークの状況を教えてくれる?
堀口:神社みたいな感じです。シーンとしているなかで、遠くから波がやって来る。そこにあるのは波対自分という世界観で、自然と一体化しているような気持ちになるんです。むしろ、そうならないといけない環境ですね。失敗したら大ケガをする。失敗できないし、そのためには、自分の心を海に対して解放させることが重要なんです。嘘はつけない。自分の持っている力だけで波に乗るわけですから。できることしかできないんです。だから、自分を知り、自然を分かることが重要。そして、その人のレベルでおこなった両者への理解を持って、さらに限界へ挑む瞬間がテイクオフ。僕はパイプラインのことをパイプライン神社と思っているんですよ。それくらい聖なる場所だと思うんです、パイプラインは。