まずは高尾山に登る – …Research General Store 高橋謙吾
友人との会話で「山に登ってるねぇ」なんて話が振られると、「山に連れてって」だったり「おすすめの山は?」なんて良く言われる。確かに、近ごろの僕は頻繁に山を登っている。しかし、週1ないし2回の休みに関東近郊の低山をせっせこ歩いている程度で、これは山を語るほどの大した経験では無い。聞く方だって、半分は話題作りで聞いてくれている筈だ。
そんな僕が、それでもどこかの山を挙げるとしたら、高尾山を薦めると思う。1時間ちょっとで山頂へ立つことが出来て、嫌なら、なんとでもなる(戻ってしまっても良い)。それでいて、しっかりと山の風情があって、やる気があれば、奥多摩まで縦走も可能。そして、なによりもここは僕が最初に目指した山であるわけで……。
その日は朝から雨が降っており、終点の高尾山口駅を下りたのは、僕以外に数名。山の装いは一組の夫婦くらいで、ここは本当に人気の山なのか? と疑う反面、雨の日に山を登っちゃ駄目なの? などと色々な想像が頭を駆け巡る(もちろん、山歩き初心者だからね)。
そして、最初に取った行動は、駅ロータリーにある案内所へと向かうこと。案内所に入ると「雨なのにご苦労様です」なんて声を掛けられ、早速に高尾山のコース説明を受ける。すると、先日の台風で、使えるコースは2つ(他は閉鎖されているらしい)、稲荷山コースと6号路。稲荷山コースはぬかるみがひどく、6号路は水たまりがすごいらしい。そして、案内所の人にぬかるみの稲荷山コースを目指すことを宣言し、この場を後にする。
傘をさしながら、稲荷山コース登山口を探す。この日、レインウェアとして傘を選択した理由は、現在リュックに忍ばせている本「メイベル男爵のバックパッキング教書」にその良さが書かれていたからで、傘は透湿(湿気を外へ出す数値)未知数のスーパー雨具である(そのかわり、濡れる可能性も未知数ですが……汗っかきの僕には大変嬉しいギア)。その傘を片手に、いざ! 初の単独行、稲荷山コースへと突入する。
その歩きは、体力温存と安全確保のため、(登山技術の本に書いてあった)スローかつ歩幅を小さくして進むのだが、せっかちな性格が邪魔をして、なかなかペースを落とせない。また、無意識に木の根を踏めば、足元がツルッと滑り、予想以上に木の根が滑るのだと知る。そして、登山開始から20分ほどで、息も切れ切れに最初のピークである稲荷山へ到着。汗で濡れてしまったコットン素材のシャツを脱げば、体からは湯気が上がって周囲の霧と同化していく。その下に着ている綿のTシャツは汗でびっしょり、僕は体が冷える前に稲荷山を出発する。まだ、誰ともすれ違わない。
台風の爪痕と思われる倒木が道を塞ぎ、そこを乗り越えたり、くぐったりしながら先を目指す。ふんわりした霧は何とも幻想的で、そして寂しい。ようやく、向かいから作業員がやってきて、すれ違えば、急に現実へと引き戻され、同時に孤独感から解放された。その先の木の階段を登りきれば、そこが山頂となる。
たった1時間10分の道のり、ひと仕事終えた(下山もあるから、本当は終わっていないのだが)自分にジャスミン茶で労ってみる。横のベンチでは4組の小さいグループが休んでいた。
ちょっと冷えて来たので、途中で脱いだシャツを羽織ると、さすがに綿素材のシャツが乾いているわけも無くて、ものすごく冷たい。すると、体温が下がると同時に、山歩きへの情熱も急速に冷めてゆく。
いや、そうではなくって、実は僕が山頂に着いた時点で、すでに心の中は山歩きから高尾山観光へと気持ちがシフトしていた。だから、そそくさと坂を下り、ケーブルカーのある薬王院方面へと歩き出す。すると、登山とは違う観光客達もチラホラとすれ違うようになった。次第に観光客の割合が上がってくると、デカいリュックを背負っているのが、なんだか大げさに感じて(さらに山登りの格好に慣れないもんだから)恥ずかしい。
こうして、高尾山の1号路と言われる定番コースを堪能し、その終わりにケーブルカーの駅がある(ここから徒歩で下る道は閉鎖中だった)。そのケーブルカーで下山し、5分ほどで高尾山口駅に到着する。
ホームには誰もいない。シーンと静まり返ったホーム、ぼんやりしながら電車を待つ。すると、僕の中で、小さい達成感と物足りなさが交雑してわき上がってきた。この気持ちが自信となって、次に目指す山、丹沢の塔ノ岳への活力となってくれれば良いのだが(そう上手くは進んでくれないのは後で話すとして)……こうして僕の低山歩きは始まった。そう、高尾山は山歩きをはじめるにはピッタリの山だと思う。なぜなら、これを機に多くの低山を目指すようになったのだから。
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