「新井洋人」独占インタビュー
- 昨年のWSLワールドランキングは、107位という成績でした。昨年を振り返って、反省点とかはありますか?
H:そうですね。ランキングが上げられなかったのは、プライム(QS10000)の大会で勝てていないということが大きかったです。自分のサーフィンのスキルが、まだそのレベルに届いていないということを判らされました。
でも、トップ30以下はどんぐりの背比べじゃないですけど、技術的にはそんなに変わらないと思うので、その中でどれだけコンスタントに点を出せるかだと思うんです。ただ、どんな状況でも点を出すというのが一番難しい。世界を廻って、その試合だけに集中して勝つということが、改めて難しいと感じた年でした。
- そして、今年はオーストラリアからのスタート。これまでの結果についてはどう思っていますか?
H:今年はオーストラリアから身体の調子も良かったし、板も良かったんですけど、でも、勝てなくて。サーフィンもすごい良かったし、感覚的にイケるなって感じだったんですけど、それが、ハマらず負けていました。何か歯車が合わないという感覚がずーっとあって。その時の作戦がダメだったのかもしれないですけど、リズムが本当に合わなくて。
でも、やるしかないじゃないですか。グダグダ振り返っても仕方ないし、結果は出ちゃっているし。自分では、まだ前半戦でしょって思っていて。前のことを考えるより、今、何ができるのか。次に対しての準備は何か。できることを一つ一つやっていくしかないと考えるようにしました。
- 今年になって、何か変えようとしていることとかはありますか?
H:そうですね。変えようというよりは、今まで積み重ねてきたものをどこまで試合で出していけるか、と考えているので。ただ、トレーニングは今年に入ってからトレーナーが代わりました。もちろん、積み重ねですから、前のトレーニングもやっていてますけど、+(プラス)新しい出会いがあって。
田中和寿先生(アスリートラボヨコハマスポーツ整骨院)は、サッカーのマリノスに20年間、リハビリとパフォーマンスアドバイザーを務めてきた人で、身体のことを医学的に教えてくれて。今までのとりあえず、鍛えて、身体でかくして、という単純な考え方をガラッと変えてくれました。
基本は呼吸についての教えが多いですけど、腹式呼吸など呼吸によって、自律神経と交感神経とかの関係で大きく変わってくること。落ち着くためにはどうしたらいいのかなど。まず、自分はそれを一つ一つ理解することから始めました。
まだ完璧ではないですけど、試合ではやっと何となくつかめてきた感じです。それが湘南の大会では、それが上手くリズムに合っていたのかもしれません。
- さて、その湘南の大会について。実は体調は最悪だったと聞きましたが?
H:湘南の大会ではジャクソン・ベーカーとカラニ・ボールの二人をケアーしていたんですけど、そいつらの部屋がエアコンをギンギンにかけた鬼寒の部屋で。一晩、そこで寝ていたら喉が痛くなってきて、次の日からは、部屋を変えて寝たんですけど。さらに鼻水も出てきて頭も痛いし。それが、試合が始まる前日でした。あー、これはやばいなと思って。
ファイナルデイの前日は、ヒートも3ラウンドあって。何とか気合いで勝ち上がっていたんですけど、フラッフラッでした。なので、その日の夕方、田中先生の病院に連れて行ってもらって、点滴を打ってもらいました。熱を測ったら、38度ぐらい。力は入らなくはないんですけど、もう、頭がボーッとしちゃって。病院でけっこう楽になった感覚で38度でしたから、前日のひどかった時の熱は、たぶんそれ以上だったかもしれません。
- どういうモチベーションでヒートをこなしていったんですか?
H:もうとりあえず、波のことと作戦を考えて。身体のことはあまり考えないようにしていました。ヒート前は一回、目を閉じるんですよ。あぐらかいて、いつもやっているストレッチやって、目を閉じて、そしてイメージする。あと周りの音を聞くようにします。コンセントレーションで気持ちを整えて。
前日にはビタミン剤、栄養剤とか、いろいろな果物、野菜とか食べて。あと豚肉食べて、水分をたくさん取って、汗をかいてを繰り返していました。やれることはやったかなっていう感じです。もう、これで戦うしかないと思っていたので、逆に思いっきりできたのかもしれません。
- 大会最終日は何度かコールがあって、ウェイティングとなりました。その時の気持ちは?
H:結果的には優勝したから良かったんですけど、キツかったですね。最初は6:30の7:00スタートの気持ちでいて、6:30からかなり集中していて。次に8:00コールになって、9:00スタートするって言われたので、8:00過ぎぐらいから、もう一回スイッチ入れて波を見ていました。そしたら、今度は10:00になって。さすがに10:00になった時は、ちょっと、うーん、どうなるんだって。
- 気持ちを持ち直す方法とかはあるのですか?また、作戦はあったのですか?
H:一回、バッと切って。もちろん、全部は切らないですけど、一回横になって。ゆっくりと呼吸して、落ち着いて。これは今回教わったことですけど。また、30分前ぐらいになったら、バッと気を入れて、集中して。この日はセミとファイナルの2回しかヒートはないので、やれることをやろうと思って集中していました。
鵠沼は今大会通して波を待っている選手って、けっこう負けていたんですよね。待ち過ぎちゃって、どの波乗って良いかわからなくなって。その中でも小さい波の方が張ってきて点が出る波があったんです。だから、リズムに乗って攻めていこうという作戦で決めていました。
- 湘南の大会ではたくさんの人が応援に来てくれていましたね。
H:この試合では平日なのに、みんな応援に来てくれていました。いつもWSLは海外ばかりだったので、画面の向こうで応援してくれているんだろうと思っていました。けれど、今回それを目の当たりにして、本当に応援してくれているんだなって。それを思い知った大会でもあったし、それを感じた大会でした。その中で優勝できたのは、本当に嬉しかったです。
恩返しというか、まだまだこれからですけど。日本の試合で自分の優勝を魅せることができて、良かったなって思っています。QS初優勝ですし、この一勝は本当に自分の中で大切な、大きな一勝かなって思います。
- では、今年の目標を聞かせてください。
H:去年の目標はWSLワールドランキング 80位以内で、107位という結果でした。なので、まずは前半戦で80位ぐらいに入って、後半戦を戦いたいと思っています。その順位ならQS10000は全部出られるので、どんどん順位を上げて行きたいですね。
今の自分の持っているベスト5のポイントなら、ちょっとでも勝てばポイントが加算されてランキングは上がっていくので。QS10000の大会が減ったので、これからの大会を一つ一つ大切に勝っていけばチャンスかなって思っています。ただ、QS10000に勝たなければ最後は残っていけないので、このグレードで絶対勝ちたいですね。
- QS10000で一勝でもすれば順位は上がり、50位内に入ります。可能性は広がりますよね。
H:でも、はっきり言って、自分がそれでCTに入ったところで、通用するかと言われれば100%と無理だと、今は感じています。はっきり言って、今の実力ではタヒチとか、フィジーとかはまだ無理です。滑れないということでなくて、パフォーマンスを魅せれるかということで言えば、そのレベルではないと思っています。
だから、今は経験を増やしながら、徐々にランキングを上げていくことに集中したいです。そしたら、試合も絶対上手くなっていくし、サーフィンも上手くなっていくという思うので。
- 目標に向けて。では、逆算で考えたら今から3年後ぐらいということでしょうか?
H:そうですね。3−4年で考えています。今、21歳なので、24、5歳。まだ、自分は身体が小さいですけど、ちょうど出来上がってくると思うし。コーチとは単純に大きくするというよりは、今持っている力を100%出せるように、動かせるようにしようというのをやっているので。これからの3年を大切に進んで行きたいと思っています。
- さて、サーフィンがオリンピックの追加種目に決まりました。これついてはどう思いますか?
H:本当に光栄だと思います。光栄というか、本当に嬉しいです。オリンピックって全世界、誰もが認める国際大会じゃないですか。そこで活躍できれば素晴らしいと思います。
ただ、自分の目標は常にCTなので。そこに行くにはスキルをもっと上達させなきゃいけないし、サーフィンも進化させていかなきゃいけない。CT目指して、入って戦うぐらいの技量がつけば、結果、オリンピック代表として候補にも選ばれると思うので。そうなれば、ぜひ出たいです。
- 最後に。サーフィンの魅力って何でしょうか?
H:その質問って、けっこう良く聞かれるんですけど難しいですよね。何と答えたらいいのかわからないんですよ。何だろう。波って不規則だし、海の中で板一枚でその自然の不規則なものに対して、自分の技量でその波を乗りこなせるかどうかのスポーツ。何が面白いんですかね。難しいですよ、サーフィンって。難しい。でも、できなさすぎて面白いというのもあります。他のスポーツとは全く異質ですよね。
そうだ。海って気持ち良くないですか?入っただけで。普通の人なら、年に一、二回かもしれないですけど、海に来て、入って、気持ちいい~!ってなるじゃないですか。浅瀬の海でパチャパチャしているだけで気持ちいい~!のに、その海の中で自由に動けたらどうかって、考えてみてください。板を使いますけど、泳ぐとは全く違う。海の中で自由に動けるんですよ。すごくないですか?
そう、サーフィンって、それが面白い。でも、それがまた簡単にできないんですよ。そこが良いのかも。それができないから、上手く滑ってみたいってなるし。いつまでたっても理想には近づきにくい、というか近づくけど近づいたら近づいたで、また違った理想が出てくるし。
でも、練習して上手くなることで、さらに自由に動けるようになりますから。チューブに入ってみたりとか、大きな波を滑ってみたりとか。また、カッコいいサーファーを見つけて、その人の動きを真似してみたりとか。ちょっとできるようになったら、もっと面白くなるのがサーフィン。ハマりますよ。
新井洋人
生年月日:1995年3月24日生
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Interview/Photo:S.Yamamoto
新井洋人・湘南オープン優勝ビデオクリップはこちら↓
youtu.be/Video:M.Sakurai