Update:201611.01TueCategory : Namiaru? News

パタゴニアのウェットスーツを選ぶという事~大原氏インタビュー~

サーファーにとって必要不可欠なウェットスーツ。各社から様々なラインナップがあり、どれを選べばいいか悩むサーファーも多いのではないだろうか?今日は、数あるウェットスーツからパタゴニアが作るウェットスーツに注目してみる。FSC(森林管理協議会)認証天然ラバー使用、CO2排出量削減、ネオプレン不使用、リサイクル素材、品質保証のパタゴニアのウェットスーツとは?サーファーにとってのメリットは?革新研究ディレクターでありウェットスーツの開発者でもある大原氏に直接インタビューを行い、その秘密に迫る。IMG_3525

今回インタビューに応えてくれたパタゴニア大原氏

パタゴニアのウェットスーツを選ぶメリットとは?

「ストレッチ性、伸びるかどうか。脱着のしやすさ。速乾性。耐久性。保温性ですね。」

パタゴニアのウェットスーツに求められることは”最高のウェットスーツであること”。それは機能としてはもちろん、環境に対して負荷が少ないことを同時に成して始めて成立することだと言う。今回のウェットスーツはサーファーが着て、素晴らしいものになっている。フルラインナップでユーレックス・ウェットスーツを展開

ウェットスーツの耐久性は?

「頻繁にサーフィンをされる方でも4年くらいは持つと思いますよ。」

この裏にはパタゴニアの製品に対するこだわりがある。まずはシーム。ウェットスーツの故障として良くシームの部分から壊れてくることがある。パタゴニアは、シームを両面を加工している為、耐久性が高く、さらにウェットスーツを縫製する時に防水の施しを行っている。これにより基本的な耐久性が高い。さらに、リペアシステムが他社よりも優れている為、長く使っていくうちに万が一故障した際、ストアでリペアに出すことが出来るというメリットがある。

「実際にパタゴニアのウェットスーツを使ってみて、他との違いを感じて、この性能はどうやって実現出来ているか?何で出来ているか?に興味を持ってほしい。」

そうすることで、パタゴニアの素材・ユーレックスにたどり着き是非、興味を持ってほしいと言う。

「ユーレックスを最初から押し売りにはしたくない。」

その言葉の裏には、ウェットスーツとしてしっかり勝負をする。最高のウェットスーツを作る。というメッセージを感じることができる。ただ、いいモノを作るだけでなく、パタゴニアのミッション・ステートメントである

『最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。』

を実現する為に、従来のネオプレンでなく、ユーレックス天然ラバーを使いウェットスーツを作ることを選んだ理由とは?

天然ラバーを選んだ理由とは?

「パタゴニアのウェットスーツとして、最高のものを作ってほしい」

と2003年にイヴォンから言われたことがスタートと言う。ウェットスーツにおけるネオプレンの歴史は古く、ネオプレンを使うことが当たり前の世の中。しかし、パタゴニアとして環境負荷の少ないウェットスーツを作るにはネオプレンに変わる素材を探すことが必要だった。しかし、根本的に変えるにはとても長いプロセスがかかる。

今すぐ何が出来るか?

そう考えて着手したのが、使われている生地を変えることだった。1日に2ラウンド、3ラウンドとサーフィンをするサーファーにとって快適なウェットスーツを作りたいという想いから保温性、速乾性が高い生地を探していた。そこで利用することになったのがウール。重い、チクチク感もあったが、冬のセーターにも使われるほどの暖かい素材。なおかつウールは撥水性もある。チクチク感を除く為に、外装をはがす製品が多いが、チクチクする外装がもっとも撥水性がある。外装をはがさずに使えるように工夫。さらには水が入り込んだ時に流れやすくする構造にもした。その成果もあり、当時市場に出ているウェットスーツの90%増しの保温効果を出すことが可能になった。(通常4mmのウェットスーツを持っている人なら、パタゴニアのウェットスーツでは2mmでOKといえる性能を実現)

「ウールを使うことで薄くなるし、軽くなる。さらには原材料が減り、環境にも優しい」

2006年にパタゴニアからリリース(限定的な発売だが業界にとってインパクトがあった)したウールを使ったウェットスーツは当時一番暖かかったし、軽かった。ウェットスーツの性能にイヴォンも非常に満足したし、なにより原材料を摂取する量が減らしたことにも喜んでくれた。

そして、彼の次のリクエストが

「もっと環境に配慮したウェットスーツを作ってほしい」

非常に難しいリクエストなので、イヴォンには実現には時間がかかると話した。もっと環境に配慮したウェットスーツを作るならネオプレンを使わないことを考えなければならない。ネオプレンの歴史も長く完成度も高い。ここからネオプレンの代わりを検討することになる。

ここでの答えが最終的に天然ラバーにたどり着く。

2008年にアリゾナに出張した際に、グアユールの植物を栽培している農家に出会い、グアユールの樹脂を使って簡単にゴムが作れるという話を聞いて、これがネオプレンに変わるのではないか?とひらめくことがきっかけで、ユーレックス社と共同開発契約を結んで、開発を開始することになる。

これがユーレックス天然ラバーのはじまり。

その当時ユーレックス社は手術用の手袋を開発していて、ウェットスーツは考えになかった。しかし、ここから4年かかって200種類くらいの試作を作り開発を続けてきた。

「正直もっと簡単に出来るかと思っていた。」

ウェットスーツの機能要件を満たす天然ラバーを作るのは本当に大変だった。と大原氏は言う。

4年もの歳月をかけて、2012年の冬にユーレックスのウェットスーツが完成し、渋谷ストアで記者会見を実施。そこからパタゴニアとして本格的にユーレックスがスタート。当時は、ユーレックス60%:ネオプレン40%。まだユーレックス100%でやるのは難しかった。

天然ゴムと合成ゴムを使う理由は?また、それぞれの特徴とは?

「ゴムの調査を続けていると、タイヤメーカーが天然ゴムと合成ゴムを合わせて作っていることを知った。」

《合成ゴムと天然ゴムの特徴》

合成ゴム:耐久性、耐紫外線、耐オゾン性
天然ゴム:粘着性、グリップ力、伸縮性

タイヤメーカーも両方をブレンドすることで性能が高めていた。ブレンドが理にかなっていると考えて、ユーレックスとネオプレンの合成ウェットスーツを作ることに。パフォーマンスを重要視した時に、ユーレックス100%でネオプレンに対抗することが難しかったことが分かった。両方のゴムのいいところをブレンドすることでネオプレン100%に比べて遜色のないパフォーマンスを出すことが実現出来た。そうすることで、ネオプレンの使用料が減り、ネオプレンのウェットスーツより環境に対する負荷は軽減した。

次の課題は、ネオプレンを使わないウェットスーツ

次はユーレックス100%を目指す開発を進めることに。そして、2015年の秋、ネオプレンを使わないウェットスーツがやっと完成した。ユーレックス80%、ネオプレンでない合成ゴム20%のウェットスーツだ。引き続いて80%を以下に100%にするかを検討している。さらに、カーボンフィットプリントは90%くらい提言できるという。こうなれば環境に対する負荷が全然違うものになる。

とはいえ、ユーレックスの製造コストは高いのでは?

「他社より3割ほどは高いと思う。」

「是非、他社にも使ってもらって使用料を増やし、製造コストが下げる努力をしたい。」

まさに、パタゴニアのミッション・ステートメントだ。
いかに意識を変えて、世の中にいいことが出来るか。環境問題を解決する為にはそれが必要だったと認識したという。

パタゴニアにいると環境問題を意識することは当たり前。実は、既に2012年に競合他社に情報を開示して利用を促している。

「パタゴニアはサーフィンには新規参入企業だが、ようやくユーレックスを採用して、理解をしてもらってきていると感じている。」

FSCとは?またFSCを利用する意味とは?

グアユールを使い続けるのがいいのか、変えた方がいいか?ユーレックスと相談して、ヘベアツリーを使えないかと話が出た。ゴムの木を植えてプランテーションすると水の利用が多く砂漠化してしまう問題もあり、さらに栽培している国が裕福でなく、賃金をただしく支払う仕組みを監査して認証し、サステーナブルな環境を作らなければならない。

それがFSC(森林管理協議会)

世の中に対する影響力としてFSC認証済みのウェットスーツを出すことが、もっと影響があるのではないか?そう考えて、ヘベアツリーのゴムを利用して、ウェットスーツを作ることに着手。ヘベアツリーのゴムは耐久性があり、耐オゾン性能も高く、結果的に80%まで性能を高めることが出来た。環境に対する負荷、へベアのFSCで行った方がいいと判断して新しいユーレックスをスタートした。

ヘベアツリーの生産力は?

「タイヤのメーカーが既にヘベアツリーを利用している。生産力には問題はない。ただし、FSC認証済みの生産量は少ない。」

これはゴム業界へのチャンレンジだ。パタゴニアとしてウェットスーツで業界に風穴を開けた。と大原氏は言う。消費者の人が、ウェットスーツの天然ゴムがどう言った用途で使われているか?是非、興味を持ってほしい。そうするとタイヤの業界に行きつくと思う。その時に、タイヤメーカーがどうなのかを知ってほしい。

企業からのメッセージでなく、消費者からタイヤメーカーに対してFSCを使ったゴムを作ってほしいと意見が出てほしい。巨大なところに影響力を与えたい。そういった効果も期待している。

ウェットスーツのリサイクル、処分のコストは?

「ウェットスーツは産業資材の粗大ごみで処分される為、コストがかかるし環境に対する負荷も大きい。パタゴニアにはウェットスーツのリサイクルを強化している。使えなくなったものの再利用を考えている。」

大原氏は言う。買う前に2回考えくださいと。

「パタゴニアの商品が本当に必要か?」

それは無駄な消費にしてほしくないという想い。物を大事にする想いの表れだと感じた。また、パタゴニアはリペアセンターに投資しているアパレルメーカーである。リペア・リサイクルには4つの工程を持っており

①中古のマーケットを開拓
②それでも行き場のないものをリサイクルしている
③100%ポリエステルならケミカルリサイクルを利用
④ブレンドのメカニカルリサイクルで別の商品に変えて利用する

こういったステップで資源の再利用を促し、環境負荷を減らす取り組みを続けている。

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———– インタビュー終了 ———–

 

今回、大原氏にインタビューを行い改めてパタゴニアの環境に対する意識の高さを感じた。それは大原氏個人からはもちろんだが企業として同じマインドをもち、ミッション・ステートメントを意識した活動、またそれを実現できる投資をしっかりと行っていることも理解できた。

海でサーフィンを楽しむサーファーだからこそ、今サーフィンを楽しんでいる海を後世に残していくためにもやらなければならないことがあるだろう。それは人それぞれ違っていいと思う。ただ共通の意識として環境負荷を少なくすることは忘れてはいけない。

そういった意味で、パタゴニアのウェットスーツを選ぶということも一つの環境対策なのかもしれない。

●Patagonia
http://www.patagonia.jp/home

パタゴニア直営店では以下の11店舗で展開しています。
・パタゴニア 京都
・パタゴニア 大阪
・パタゴニア サーフ大阪/アウトレット
・パタゴニア 神戸
・パタゴニア 福岡
・パタゴニア 札幌北
・パタゴニア 仙台
・パタゴニア サーフ千葉/アウトレット
・パタゴニア サーフ東京/アウトレット
・パタゴニア 鎌倉
・パタゴニア 名古屋

●ユーレックス天然ラバー製ウェットスーツ
http://www.patagonia.jp/yulex-natural-rubber-wetsuits

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大原徹也 (Tetsuya O’Hara) プロフィール425x575_davis_t_20451

1962年京都市生まれ。1985年同志社大学経済学部卒業後、帝人株式会社に入社し繊維事業部に配属、11年間大阪本社にてセールクロスをはじめとしたスポーツ用途テキスタイルの開発及び販売を担当。1992年、1995年にはアメリカズカップ日本艇のオフィシャルサプライヤーとして世界最先端のセールクロス開発に従事する。
1996年に家族と共に渡米、コネチカット州に本社を置くハイテクコンポジット製造大手のディメンジョンポリアント社に入社、航空宇宙、産業資材、スポーツ資材、セールクロスの開発及び販売を統括する。当時開発したナイロン高強力糸15デニールを使用したアメリカズカップ仕様スピネーカークロスがパタゴニアのDragonfly jacket (現在はHoudini) に採用され、そのことがパタゴニア入社のきっかけとなる。
2003年、カリフォルニア州に本社を置くアウトドアウエア製造大手のパタゴニア社に入社。現在、パタゴニア米国本社Director of Innovation Researchとしてニューテクノロジーや新しいビジネスモデルを探求し、長期的な視野に立ったパタゴニア全社のイノベーション戦略を立案している。発明家としても米国特許5件、国際特許2件を取得し新商品開発に役立てている。
2008年にはカリフォルニア州ペパーダイン大学経営大学院にてMBAを取得。
2010年ペパーダイン大学経営大学院理事就任、2012年MITスポーツテクノロジー&エデュケーションのボードアドバイザーに就任、2016年スコットランドはセントアンドリュース大学経営大学院のボードアドバイザーに就任、欧米学術会とも太いパイプを持つ。ウインドサーフィン歴35年、スノーボード歴23年。2015年からカイトサーフィンを始める。文武両道が信条。

(Writer:TAKAO KOBAYASHI)