マーク・カニングハム インタビュー(前編)
ハワイにはライフガードという仕事がある。警察官や消防士と同様の公務という実情は、暮らしとビーチ環境が密接しているハワイらしい。四季のある日本のような季節労働者ではなく、年間を通したフルタイムの仕事なのである。
同職に就く人にはサーフィン界で高名な人がいる。ビッグウェイバーの象徴として英雄視されるエディ・アイカウ。女性初のライフガードとして知られるレラ・サン。そして屈指のボディサーファーとして名高いマーク・カニングハム。
今回は2005年まで現役ライフガードとしてパイプラインを含めたノースショアを見守り続けたマークさんに、ライフガードという仕事の内容と魅力について語ってもらった。
<プロフィール> マーク・カニングハム。67歳。ハワイ・オアフ島、ノースショアにあるサーフスポットのエフカイビーチパークを勤務地に、29年間のライフガード生活を送ってきた。エフカイビーチの真横には、世界中のサーファーに知られるエキスパートオンリーのサーフスポット、パイプラインがある。シーズンとなる冬には電信柱ほどに大きな波がブレイクするパイプラインには、その波を味わおうと腕利きのサーファーが世界中から集結。激しく混雑する模様を毎日眺めつつ、マークさんたちは死線の番人として多くのサーファーを救ってきた。一方、世界屈指のボディサーファーでもあり、近年ではボディサーフィンに焦点をあてた映像作品『カムヘル・オア・ハイウォーター』で中心的な役割を演じた。※以下の映像の最初の方に声とあわせて登場する人物。
−−−−ハワイではライフガードが公務と聞きました。仕事の内容を教えて頂けますか?
「ライフガードは合衆国政府が公認している地方公務員です。ビーチと海のなかが常に安全であるように監視しています。エリアによって異なりますが、基本的には午前9時から17時までが勤務時間。年間365日を交代で勤めます。この体制はアメリカ合衆国内でも稀な状況です。カリフォルニア州では繁忙期の6月から8月、フロリダ州やニュージャージー州などの東海岸地域も夏場だけの季節業務。ロサンゼルスの一部では通年ライフガードを勤める人がいますが、ごく少人数です。しかしここハワイでは通年の仕事として認知されています。」
−−−−どれくらいの人が常勤しているのでしょう?
「退職して10年近く経過するため今日の正式な人数は把握できていませんが、おそらく250名前後のライフガードが働き、約200名が常勤、残りの人が週に3日ほどの勤務体系にあると思います。」
−−−−ライフガードは、ハワイの人にとっては一般的な職業なのですか?
「それほど一般的な仕事とは言えませんが、ただハワイ州の人々は警察官、消防士、救急隊と同じようにライフガードを認知していると思います。」
−−−−ライフガードの一般的な任務について教えてください。
「任務内容は勤務する海岸によって大きく異なります。例えば、ノースショアの夏場はスイミングプールのように波が全く上がりません。けれど冬場になると大きいサイズまで上がり、とても忙しくなります。伝統的には、地域にあるライフガードタワーを軸に、街の美化、子供、女性、緊急を要する人々の手助けを第一に活動します。大きなサイズの波の日には街中に警告をして、ビーチに警告の旗を上げ、アナウンスをし、海岸を歩いて、人々の身を守るために注意を呼びかけます。」
−−−−通年同じ場所に勤務するのですか?
「人により異なります。通年同じ場所に勤務するメンバーもいれば、経験を積むために数日を同じ場所で勤務した後に移動を繰り返すメンバーもいます。勤務エリアですが、オワフ島の場合には4つの区域があります。ワイキキ、アラモアナの第1区域、ハナウマベイ、サンディービーチ、マカプー、カイルアの第2区域、サンセットビーチ、エフカイ、ワイメア、チャンズリーフのノースショアが第3地域、そして第4区域がウエストサイドのマカハ、ヨコハマ、マイリです。それぞれにキャプテンが在籍して、タワーと4台のジェットスキーが常備されています。カイルア地域は広いためにサンディービーチとカイルアビーチにそれぞれジェットスキーがあります。ノースショアにも2台のジェットスキーが準備されています。」
−−−−マークさんが勤めていた場所は?
「ほとんどの任務はエフカイビーチ地域でした。1976年の冬に異動したんです。それから約20年間勤め、後に9年ほどライフガード本部に勤務してトレーニング部門の顧問を担っていました。」
−−−−トレーニングとは具体的にどのようなことをするのですか?
「ライフガードは、日々の業務と、アラモアナビーチパークでおこなわれる厳しいパフォーマンステストの通過を念頭にトレーニングをします。そのテストの内容は3つ。まず海岸を1キロ走り、同じ距離を泳いで戻ってきます。制限時間は25分です。休憩を数分とった後におこなうのが400メートルのレスキューボードパドル。大きなロングボードをパドルして沖へ向い、100メートルほどのところに置かれている約11フィートのボード4枚を1枚ずつビーチへ運びます。計4往復の制限時間は4分。3つめがラン・スイム・ランと呼ばれるもので、ライフガードに必要な活動内容をミックスしたものです。100メートル走り、続けて100メートル泳ぎ、そして100メートル走る。これらを3分以内におこなうことが求められます。目的は全力疾走の状況下でも冷静に対処できる心身をつくることで、ハワイのライフガードが求められる最低限の事柄です。こうした内容を踏まえて、ライフガードたちは日々、砂浜でのランニング、サーフィン、ボディサーフィン、シュノーケリングと向き合っています。」
−−−−冬のノースショアは怪我人が絶えない状況になりますね。
「そうですね。足を怪我するサーファー、サーフボードが衝突する事故など、アクシデントはとても多くなります。しかし、それでも冬のノースショアには波を求めて世界中からサーファーが集まります。時には身の危険をおかしてでも、より大きな波、チューブを狙っていくサーファーなど日常茶飯事です。」
−−−−そのような危険な海の状況でレスキューする場合、何が大切になりますか?
「まず、事前の警告をすることが重要です。通常ならば、巨大な波に乗っているのはひとり、もしくはふたり。とはいえアクシデントが発生した時、すぐに救助することはできません。サーファーで混雑する海のなかでアクシデントに見舞われたサーファーを見つけ、迅速にジェットスキーを出動させて救助する必要があるのです。その時には波とのタイミングをはかることも大切。そのためジェットスキーのドライバーに熟練したサーファーが多いことは、とても重要なことなのです。救助の際、他のサーファーの動き、波や潮の流れなど海の知識がないとスムーズに対応できないことが理由です。世界規模の大会時にはウォーターパトロールが編成されますが、彼らはサーファーが大きく危険な波に挑む際、常にその動きを監視しています。そして、もし大会を海上から撮影するフォトグラファーやビデオグラファーがいる場合、彼らの安全も確保しなくてはなりません。水中から撮影する場合などは、ウォーターパトロールのジェットスキーがあれば機材をそこへ置くなど、より撮影に集中することができます。またハワイではサーフィンだけでなく、パドルボード、SUP、スイム、ボディボードなど多くの大会が行なわれており、そのすべての大会で安全を確保することを目的に、ライフガード、ウォーターパトロールは陰ながらサポートしているのです。」
▼後編はコチラ
・伝説のボディサーファー、マーク・カニングハム インタビュー(後編)