Update:201309.23MonCategory : 

太陽が水平線に沈んで夜となるビアリッツのビーチタイム


 千葉や湘南など日本の太平洋側で、太陽は海からあがる。極東に位置する日本が、最も早くその日のはじまりを告げる太陽を見られるため、日出づる国という言葉も生まれた。新しい一日のはじまりに対する期待感や希望を海から昇りゆく太陽に重ねる心持ちというのは、ご来光にありがたみを覚えるように、日本に生まれ育った人なら理解できるものだと思う。

 対して日本海側では太陽に海が沈み、一日が終わる。カリフォルニアも、大西洋岸のヨーロッパ諸国も同様で、空の色を暖色に染上げながら、ゆっくり、ゆっくり、水平線に姿を隠していくことで一日が終わりゆくことを告げる。

 太陽が昇る土地で育つのと、太陽が沈みゆく土地で育つのとでは、実際に、具体的に、何が違うのか。肩の力が抜けたライフスタイル、アートや音楽という表現におけるどこかメロウなテイストというのは、日本よりアメリカ西海岸から発信されることが多いと感じるが、それはやはり、ブルーからダークへ刻々と色を変えながら夜を迎えるマジックアワーを毎日のように過ごす生活と無縁であるとは思えない。

 たとえばビアリッツで見た光景がある。

 ビアリッツは南西フランスの大西洋岸にあるビーチリゾート地。夏には欧州各国から多くの人が訪れ、サーフィンのメッカでもあることから、腕に覚えのある実力者だけではなく、環境の整っているビアリッツでサーフ体験をしようとスクールに体験入学をするサーフ未経験者も多い。

 この地では、夏の朝は日が昇るのがゆっくりで、7時でもまだ暗く、しかも肌寒い。太陽が威力を見せはじめるのはお昼前。夏の日射しが降り注ぎはじめると、空には雲が消えて真っ青な空が広がり、それまでグレーだった海はエメラルドの輝きを取り戻す。

 日中は水着の女性であふれ、水温も高まり海は一気に活気づく。サーフィンで、ビーチに寝転がって、海岸線沿いにあるレストランでおしゃべりをして、それぞれのビーチタイムを楽しみながら、19時頃を過ぎたあたりから太陽が傾き出したことを感じだす。

 それまで真っ青だった空はゴールドとなり、オレンジになっていく。赤味を抱きはじめた空はサンセットの時間がスタートしたことを教え、ビーチ沿いの堤防には、太陽が水平線へ沈みいく光景を全身で感じようと腰を落ち着ける人が増えていく。

 時間にして30分を越えるマジックアワー。じわりじわりと太陽が水平線へ接近し、その距離が近づくにつれて、移り変わる一瞬一瞬を見逃さないようにとギャラリーの集中力は高まっていく。

 太陽が水平線に触れるまでは焦らすような展開ながら、しかしクライマックスはあっという間という言葉がふさわしい。惜しげもなく、太陽は一気に姿を消していく。海に溶けていくように、ゆらゆらと海面を照らし続けながら、最後には輝く点を一瞬だけ放ち、多国籍の観覧者を取り残して去っていくのである。

 強弱の激しい展開スピードについていけないと切なさが胸に宿る。しかしその切なさは心を動かされた証拠。慣れから淡々とその場を離れてしまえるよりは、心は遥かに良好の状態にある。

 さらに余韻は周囲にあらわれる。オレンジからピンクへ。ピンクからパープルへ。パープルからダークへ。完全に夜に包まれると、時間は21時を過ぎた頃合い。優雅なショーの観覧者が次に足を向けるのは夕食の場。コンビニなどない南西フランスの夏の一日はここからが第二幕となり、たっぷりの時間を使って食を楽しみ、新しい日を迎えるのである。

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