Update:201405.18SunCategory : BLUERマガジン

鎌倉の海水浴場、条件の10倍支払っても名称はそのままという、粋なお話


 先日、神奈川県鎌倉市の海水浴場3カ所(由比が浜海水浴場、材木座海水浴場、腰越海水浴場)の名称が決まったニュースがあった。鳩サブレーで知られる豊島屋が命名権を得たものの、「豊島屋ビーチ」「鳩サブレー海水浴場」とはせずに、全国からの公募制へ。その結果、「由比ケ浜」「材木座」「腰越」という名称のままとなったという。

 しかも同社が支払う額は年間1200万円。10年契約だから1億2千万円を鎌倉市へ支払うことになる。市による命名権の公募条件は3年以上の契約で、年間100万以上。実に年間で10倍以上の額を豊島屋は提示したことになり、それでも「名称は以前のままで」としたという、なんとも粋な話なのだ。「鎌倉に生まれ育った恩返し」「決して安くはない額だが、清掃費用などに役立てればいい」という久保田陽彦同社社長のコメントにも郷土愛が感じられる。

 一方で、「みんなの海水浴場の名前を売るなんて」といった憤りの声もあった。確かに、企業名はもとより、命名権者に個人からの応募もあったことを思えば、個人名のついた海水浴場となる可能性もゼロではなかったことになる。

 まさに豊島屋様々、なのだが、そもそもなぜ鎌倉市は海水浴場の命名権者を募らなければならなかったのか。簡単に思いつく理由としては、お財布事情(=財政)が厳しい、といったところか。

 年間で100万人以上の海水浴客が訪れ、観光の名所も数多ある鎌倉市。富裕層が多く住む印象があることから、お財布事情が厳しい、とはあまり思えない。ところが、実情は2013年には交付団体に初めておちいった。

 交付団体とは何か。簡単にいうなら、市の運営を国からのお金なしではおこえなくなった状況にある団体のこと。市の運営を税金などの鎌倉市内から得られた収入だけではまかなえず、国からの交付金を必要とする状況に鎌倉市はおかれたことになる。

 お財布事情が厳しいならば、出るお金をおさえ、入るお金が増えるようにすることで、より良く運営をしていく。それは家計も市も同じこと。だから命名権という、言うならば“市の商品”を売ったのが今回のお話しとなる。

 では、得たお金はどうするのか。鎌倉市のホームページには、命名権について、「厳しい財政状況のなかでの安定的な財源確保」と「施設の魅力や市民サービスの向上」を目的としていて、「対価として当該施設の維持管理や運営にあてる」とある。松尾崇鎌倉市長も、年間約4千万かかる海水浴場の維持運営費にあてる、とコメントしている。

 簡単にいえば、苦しいお財布事情における安定収入の確保によって、海水浴場というみんなの場所の環境をより良く保つためのお金、ということ。おそらくは、命名権による入金は海水浴場のために使われる一方、命名権によって得られたお金分の余剰金は、ふつうに考えればカットするなりして、市のお財布具合をより良くするのだろう。なにせ、いつもよりプラスに入金があったからと、その分をリッチに使ってしまったら何の意味もないのだから。

 改めて、海水浴場の命名権を売るのは財政が厳しいため。ならば、財政が厳しくならないようにすることが、本質。みんなの海水浴場に名前つける権利を売ったのだから、まさか無駄使いはしていないよね? ビーチは最低でも今までの環境は守られるんだよね?? という関心を保ち続けるのは大切なこと。市の観光資源には何があるのかを自覚して、より輝かせ、多くの観光客に来てもらい収入を増やす(=税収を増やす)といったことも大切となる。

 なにせ、長年お財布が苦しい市には“市の名前そのもの”を売ろうとしているところもあるのだから、そのうち個人名がついたアレコレが生まれてきてもおかしくはない。ただ、「個人名だろうと、たくさんのお金を払ってくれて住み心地がよくなるなら、それでいいんじゃん!?」というのも、またひとつの意見。

 さてはて、アナタは、どう感じていますか??

★神奈川新聞
★読売新聞
★鎌倉市、ついに交付団体へ
★週刊ダイヤモンド「前代未聞の市の命名権販売」