WORLD EXTREME WAVE への挑戦1
20214年12月23日、JAWSの記録
あの日、何度も何度も彼らが諦める決断をしてほしいと望んだまま、とうとうたどり着いてしまった。
真平と篤という二人の日本人サーファーにとって未知の波ピアヒを目指してきた道のりは、飛行機に乗って、レンタカーに乗って~ というだけでなく、生と死を意識する恐怖心と、更なる高みへ向かおうとする好奇心や欲望を巡る精神の道のりだったと思う。
やっと気持ちを整えて海へと向かう決心をした彼らを、言葉にしなくてもわかるほど不安丸出しな顔で見送った。今までたくさんの人と波乗りをして、沢山のサーファーが海に入って行くのを見てきたけれど、こんなに海に入ることを止めたいと思ったことは私にはなかったから、、、
多くを知られていないピアヒ
“ピアヒ”は、ハワイ、MAUI島にある世界的に有名はビッグウエイブスポットで、“JAWS(ジョーズ)”とも呼ばれており、10ftサイズ以上のうねりで波が割れだし、最大では時速50kmほどのスピードで120ft(約36m)サイズまで波をホールドするというヘビー級のポイントだ。冬がシーズンのピアヒは、レギュラーブレイクがメインで、風とうねりのコンディションが合えば美しいAフレームのチューブがラインナップする。
驚異的な波のスピードとパワーに、以前はトゥーイン(ジェットで引いてもらいテイクオフする)でしか乗る事ができないと言われていたが、近年では世界のビッグウエイバー達のレベルと好奇心の向上により、サーフィン本来のテイクオフスタイルである“パドリング”でピアヒにドロップすることが主流になりつつある。
日本人でこの波を乗った経験があるのはほんの数人で、日本人がライドしているピアヒの写真や映像もメディアにはまだほんの少ししか出ていなかった。それ故に、この波にたどり着くために必要なアクセス、準備、リスク、波の様子などの情報が国内では非常に少なく、日本人サーファーにとって未開の波ともいえる場所だ。
姿を現した波
「JAWSが上がりそうだ」という情報をくれたのは、ウインド、カイト、サップ、スノーボードを乗りこなし、日本とMAUIを中心に世界を飛び回っているワイルドなネイチャーガール岡崎友子さんだ。以前から「ピアヒの波を見せたい!日本人サーファーにもっとチャレンジしてもらいたい!」と会うたび熱心にピアヒの話を友子さんから聞かせてもらっていた。その波に遭遇できるかもしれない!まだ見ぬビッグウエイブとの出会いに胸が高鳴った。
そして、この情報に2名のサーファーが反応していた。堀口真平(真平)と藤村篤(篤)、だった。1つ前のシーズン後半に篤が一度訪れていて2回目のタイミング、真平にとってはまだ見ぬ波だ。
「波が上がってくる21日がエピックコンディションになりそう。その後、クリスマスイヴくらいまで波は続きそうだけれど後半はストーミー(荒れた天気)になるかも」その後も続けて友子さんから連絡が来ていたが、日々変わる波と天気の予報に二人はマウイ行きをためらっていた。
12月22日。予報より一日遅れて20ft~25ft(約6m~7.5m)程の波が届き始めた。普段日本で見るサイズを基準にしてしまえば、充分すぎるほどのビッグウエイブ。しかし、ピアヒに波が立つことを心待ちにしているサーファー達にとっては“気楽に”乗れるサイズだというのだから驚く。ピアヒの真価を発揮するサイズには至らなかったということもあり、有名サーファーの姿は少なかったが、イアン・ウォルッシュ、ジェイミー・スターリン、カイ・レニーなどを含む20名ほどがピアヒへパドルアウトし、波を楽しんでいた。
ピアヒというポイントは、一緒に波を共感することができるサーファーが来ることにとてもフレンドリーだという。ハイリスクなピアヒを安全に楽しむ為に、ローカルサーファー達がお金を出し合ってジェットを手配しているらしく、この日も、5~6台のジェットスキーが常時インサイドとアウトサイドを行き来し、海に入っている全てのサーファーをサポートしていた。
天気も良く、形の整ったブレイクがコンスタントに入っていたピアヒ。20年以上前から真平と共に波に乗り、彼の映像を撮り続けてきたカメラマン桜井正夫(正夫)は、友子さんにナビゲートしてもらいピアヒに到着していた。「この波なら真平はやれる!」彼はそう確信し、雷のような音を響かせブレイクするピアヒの状況を意欲的に真平に伝えた。それでも真平と篤は飛行機に乗ることをまだためらっていた。正夫は、真平との長い付き合いの中で、彼がJAWSでサーフすることを大きな壁に思っていることを理解していたが、一緒にこの波を見て、一緒にここに立って次へのステップを考えたいと望んでいた。「入るも勇気、自分には不可能だと止めることも勇気。まずは自分の目で見てもらいたい」と、友子さんも彼らが来ることを心待ちにしていた。
しかし、結局この日、二人はMAUIに姿を現さなかった。
続く
Rider/堀口真平 藤村篤 Text/角田恵 Photo/TeamM23 Ryota