Update:201601.28ThuCategory : BLUERマガジン

アウトドアを仕掛けるメーカーはずっと未来をみている

 Photo/Piervincenzo Madeo @Tropea, Calabria, Italy

目の前には「寒い現実」しかないが、仕掛け人たちは数年後の「真夏」の仕込みをしている。

目の前に起こっているのは寒いという現実だけ。しかし、今年の夏、いや、この先の冬すら通り越して、来年の夏、いやもっと先を見ている、という話だ。

とあるアウトドアメーカーの展示会にお邪魔した。広い会場に並んでいるのは、次の2016-2017秋冬商品。今年の冬でもなければ、春夏の発表会ではない。もう「次の冬」の発表会だ。

この展示会には小売店が商談に来たりメディアが取材に来たりと、メーカーにとって重要な商談の場でありプレスの場である。

世は「現実」の寒さに打ちひしがれているというのに、、、もう次の冬に起こることを各メーカーは仕掛け終わり、おそらく今頃は2018年の春夏、ひいては、2019年の秋冬、の企画会議が行われているに違いない。

この季節になると、アウトドアに限らず、ファッション、車も家具も、このような展示会が目白押しとなる。サーフィン業界にもそのような展示会があり新作が発表される。

しかし、面白いもので、サーフィン、とくにサーフギアはあまり展示会が流行らない。
ディスっているわけではない。

サーフィンのファッションやウェットスーツは別だが、特にボード本体のギアは、少しずつ進化しているのだろうし半年、年単位でのモデルチェンジや時に新しい素材がいきなり登場したりするが、基本的にファションに比べれば、かなりトラッド。つまり変化しない伝統的な代物だ。

一方、車だったらテクノロジーをどう搭載していくか、がテーマとなる。すでに無人の車さえ走ろうとしているし、スマホのSIRIのように、車が親身に語りかけてくる時代だ。

サーフィンギアにも、きっとそんなITを搭載しようというメーカーが出てくるはず、との期待感は薄く一向に出てこない。

メルセデス・ベンツが加速度センサー搭載のサーフボードを実証実験しているが、さすがメルセデス。彼らの得意とする空気力学をサーフィンで応用実験し、ボードに加速度センサーはもとより遠隔システムまで搭載したハイテクボード「シルバーアロー」なるものがあるにもかかわらず、一向に市販化されないばかりか、サーフボードの本体をポルトガルの有名な名産品である天然コルクで作り持続可能なサステナビリティをうたいながら環境に目線を移すなど、商業化とは別のブランディングのベクトルに向いている。

さすが余裕のメルセデスである。

その中間メーカーはないものだろうか。腕時計とアプリの連携や、サーフボードへの脱着式の加速度センサーなどもあるにはあるが、今ひとつユーザーのマストアイテムとなってはこない。

しかし、そこがサーフィンの普遍性。生産力のあるマシンボードも当然増えている一方でクラフトマン、シェイパーという職人文化が世界中に根付いている。新製品というより、もはや工芸品としての側面が強いという、稀有な道具でもあるのだろう。

さて、今回お邪魔した海とは別の、山のアウトドアのギアは随分と進化しているようだ。

サーフィンもウェットスーツやウェア素材は進化しているが、山はファッションというより、「道具」という観点で山の方がますます進化しているようにも思える。

特に素材の軽量化、保温性に富んだ製品や、破けない生地、バッグやテントなども山で命と引き換えになるトラブルを回避するよう細心の設計がなされている。これも、「身一つ」で山奥に人力で突入するという行為ゆえの進化だろうと思う。

また進化するものの一方で、地域を慎重した新製品も目にした。

つまり地域の伝統工芸や、民族部族が作ってきた織物だったり編み物を後世に残していこうという動き。これぞアウトドアのネイチャー思想でもあるのだろう。このような動きは、サーフィンにもマッチしているのではないか。

さて。寒いなんて言っている間に、市場を牽引するメーカーは次なる冬と来年の夏を頭の中に描いているはずだ。もう、きっと、2020年のことを「今」そこかしこで、仕掛けているのだ。

目の前には寒い「現実」しかないというのに。そして、どうも、未来商品群をみていると、時間感覚の時差ぼけとなるが、そういうものなのだ。

一般消費者は、寒ければ暖かいものを着て、春になればウキウキし、何かが流行っているといえば、目がいくのである。